「お給料が安い…」と悩んている保育士さんは多いです。実際に厚生労働省の調査でも、保育士退職理由の第2位(29.2%)が「給料が安い」でした。(「保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)」より)
特に私立保育園は園によってお給料にかなり差があるのが現状です。特に保育士さんのお給料を引き上げる制度を「使っている保育園」と「使っていない保育園」の差は大きいと言えます。
私はこれまで保育業界で5年以上働く中で、100以上の保育施設の給料引き上げ制度の申請に携わってきました。そこでこの記事では、保育士さんなら必ず知っておきたい給料引き上げ制度について詳しく解説しています。この記事を読むことで給料引き上げ制度を活用している保育園を選ぶことができるようになります。
この記事を参考に働く保育園を選べば、お給料をグーンとアップさせることも夢ではありませんよ。
お給料増やしたい!
保育士のお給料の理想と現実を知る
まずは保育士さんのお給料の相場を知っておきましょう。
相場を知ることで、「今のお給料が高いのか・安いのか」が判断できます。
国が想定しているお給料
国は保育士さんの想定年収を公表しています。この表の金額はひとつの目安になります。
区分 | 20/100地域 | 16/100地域 | 15/100地域 | 12/100地域 | 10/100地域 | 6/100地域 | 3/100地域 | その他地域 | 全国平均 |
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該当地域 ※抜粋 | 東京23区 | 横浜市 大阪市など | さいたま市 千葉市など | 船橋市 神戸市など | 福岡市 京都市など | 仙台市 宇都宮市など | 札幌市 新潟市など | 熊本県 大分県など | – |
所長 | 556万円 | 537万円 | 532万円 | 518万円 | 509万円 | 490万円 | 476万円 | 462万円 | 494万円 |
主任保育士 | 522万円 | 505万円 | 500万円 | 487万円 | 479万円 | 462万円 | 449万円 | 436万円 | 465万円 |
保育士 | 442万円 | 427万円 | 424万円 | 413万円 | 405万円 | 391万円 | 380万円 | 369万円 | 394万円 |
調理員等 | 366万円 | 354万円 | 351万円 | 342万円 | 336万円 | 324万円 | 315万円 | 306万円 | 327万円 |
「該当地域をもっと詳しく知りたい」という方はこちらのPDFの44ページで確認できます。押さえおきたいポイントは、地域によって想定年収に差がある(都会の方が年収が高い傾向)ということです。
ちなみに、この表には「保育園によって働いている人の経験や人数が違うから、表の金額以下でも給料が安いとは決めつけられない」といった注意書きがついています。
表の金額は、あくまでも参考程度として考えておいた方がいいです。
実際のお給料
上の表はあくまで国の想定年収のため、実際のお給料とは異なります。以下が実際の保育士さんのお給料の平均金額です。
年収換算 | 月収換算 |
---|---|
363.5万円 | 30.3万円 |
国が想定しているお給料と比較してみましょう。実態調査の結果では地域ごとの金額が掲載されていないため、全国平均で比較します。
実際のお給料 | 国が想定しているお給料 | 差額 |
---|---|---|
363.5万円 | 394万円 | △30.5万円 |
実際のお給料は、国が想定しているお給料よりも低いことがわかります。以下のとおり比較条件も異なるため、実際にはこれ以上の差があることになります。
- 国の想定年収には宿舎借り上げ支援事業の家賃補助分や、給料引き上げ制度によるお給料アップ分は含まれていない
- 実際のお給料には給料引き上げ制度によるお給料アップ分が含まれている
- 国の想定年収は所長・主任保育士を除いた金額
- 実際のお給料は所長・主任保育士も含めて計算した金額
ここでの結論は以下のとおりです。
- ほとんどの保育園が国の想定年収より安いお給料しか払っていない
- 保育士さんは適切なお給料を払ってくれる保育園を選ぶ必要がある
最終的な保育士さんの給料は各保育園(法人)が決めるので、国の想定年収以下のお給料になっている保育園がほとんどなのが現状です。
保育士さんのお給料がどこからきているか知っていますか?保育士さんのお給料は税金から支払われています。
各保育園は自治体(区市町村)から保育園を運営するためのお金をもらっていて、このお金の中から保育士さんのお給料が支払われています。お金の流れは以下のとおりです。
国 ▶︎ 【お金】 ▶︎ 都道府県 ▶︎ 【お金】 ▶︎ 区市町村 【お金(運営費)】 ▶︎ 保育園 ▶︎ 【お給料】 ▶︎ 保育士さん
保育士さんのお給料の元をたどると、国にたどり着くことがわかります。最終的な保育士さんのお給料は各保育園が決めていますが、区市町村から保育園に支払われるお金(運営費)の計算方法は国が決めています。
上でご紹介した国の想定年収は「保育園の運営費の中で、このくらいの金額を保育士さんのお給料として想定しているよ」というものです。
知っておくべき給料引き上げ制度
以下の2つは保育士さんが必ず知っておくべき給料引き上げ制度です。
- 処遇改善等加算Ⅱ
- 自治体独自の制度
どちらも保育士さんにとって非常に重要な制度なので、それぞれの制度のポイントを解説しますね。
なんだか難しそう…
なるべくわかりやすく説明するので、がんばってついてきてくださいね。
国の制度(処遇改善等加算Ⅱ)
処遇改善等加算とは、保育士さんの「処遇」を「改善」する制度です。つまり、保育士さんのお給料をアップさせる制度のことです。
処遇改善等加算は国の制度なので、全国の保育園が活用できる制度です。ただし、無認可保育園は原則対象外なので要注意。
処遇改善等加算には2つの種類がある
実は処遇改善等加算には2つの種類があります。この記事で紹介している「処遇改善等加算Ⅱ」と「処遇改善等加算Ⅰ」です。必ず押さえておきたいのは「処遇改善等加算Ⅱ」なので、「処遇改善等加算Ⅰ」の説明はここでは省略します。
処遇改善等加算にはⅠとⅡがあるのね。
特に重要なのは処遇改善等加算「Ⅱ」の方です。
役職を増やして給料アップ
処遇改善等加算Ⅱでは、新しい役職を作ることで保育士さんの給料をアップさせます。処遇改善改善等加算Ⅱを活用するかは保育園が決めることになります。
処遇改善等加算Ⅱを活用すると、どんな役職が増えるの?
処遇改善等加算Ⅱを活用することで、保育園の役職は次のように増えます。
処遇改善等加算Ⅱを活用していない保育園の役職 |
---|
園長 |
主任保育士 |
保育士 |
処遇改善等加算Ⅱを活用している保育園の役職 |
---|
園長 |
主任保育士 |
NEW!▶︎ 副主任保育士・専門リーダー |
NEW!▶︎ 職務分野別リーダー |
保育士 |
処遇改善等加算Ⅱを活用している保育園では、主任保育士と保育士の間に役職が2段階(3種類)追加されています。追加された役職の保育士さんのお給料には手当がつきます。
私が働いている保育園には「クラスリーダー」っていう役職があるよ。
表の役職名(「副主任保育士」など)は国が作った役職名です。実際には、違う役職名をつけて運用している保育園も多いです。
役職による違い
役職につくと手当がもらえるのは分かったけど、ほかにはどんな違いがあるの?あと、手当はどのくらいもらえるのかな?
役職ごとに次の内容が変わります。具体的な手当の額は以下の表をみてください。
- お給料アップ額(月額)
- 経験年数の目安
- 受講が必要なキャリアアップ研修の数(令和5年度以降必須化)
- 上限人数(保育園で何人までその役職に就けるか)
役職名 | 手当額(月額) | 経験年数 | キャリアアップ研修の必要数 | 上限人数 |
---|---|---|---|---|
副主任保育士・専門リーダー | 40,000円(基準額) | だいたい7年以上 | 4つ以上 ※副主任保育士はマネジメント研修必修 | 職員数のだいたい1/3 |
職務分野別リーダー | 5,000円(基準額) | だいたい3年以上 | 担当分野1つ以上 | 職員数のだいたい1/5 |
副主任保育士なのに、毎月40,000円も手当をもらってないよ!おかしい!
実は最終的な手当の額は保育園が決めています。ただし、手当の額を減らしているわけではなく「配分」を行なっています。また、職務分野別リーダーの手当額が5,000円より安くなることはないです。
1人の副主任保育士に40,000円を支給するのではなく、副主任保育士を2人にして20,000円ずつ支給するといったことがよくあります。
上限人数が決まっている
処遇改善等加算Ⅱによって新設された役職は、保育園ごとに上限人数が決まっています。上限人数はだいたい次のとおりです。
- 副主任保育士・専門リーダー
-
職員数のだいたい1/3
- 職務分野別リーダー
-
職員数のだいたい1/5
厳密には細かい計算式にあてはめて人数を算出するのですが、だいたい上の人数くらいになることが多いです。
キャリアアップ研修を受ける必要がある
キャリアアップ研修は2017年に国が作った「全国共通の保育園で働く方のための研修制度」です。今後、保育士等キャリアアップ研修を受けていない方は処遇改善等加算Ⅱの対象外になってしまうので注意が必要です。
保育士等キャリアアップ研修の詳細は以下の記事で解説しています。
【お給料アップ!】保育士等キャリアアップ研修をプロが徹底解説【転職を考える方必見】
自治体独自の制度
保育士さんのお給料を引き上げる制度は国の制度がメインで、全国の保育園で実施されています(前述の処遇改善等加算Ⅱなど)。
一部の自治体(都道府県や区市町村)では、国の制度に上乗せして、さらに自治体独自のお給料引き上げ制度を実施しています。
ここでは、独自の給料引き上げ制度がある自治体をいくつかご紹介します。
独自の給料引き上げ制度がある自治体の保育園は、ほかの自治体の保育園よりもお給料が高い傾向にあります。
東京都(保育士等キャリアアップ補助金)
東京都の「保育士等キャリアアップ補助金」は、保育士さんなどのキャリアアップや給料アップを目的とした制度です。
東京都内の保育園が活用できる制度で、認可保育園だけでなく一部の無認可(認可外)保育園も対象です。保育士等キャリアアップ補助金は、活用している保育園としていない保育園があります。
転職するなら、必ず保育士等キャリアアップ補助金を活用している保育園を選ぶことをおすすめします。
保育士等キャリアアップ補助金には「給料○円アップ」といった具体的な金額設定はありません。保育園が支給された補助金を各保育士さんの手当等に振り分けています。少しデータは古いですが、平成29年度の平均は以下のとおりです。
職員の種別 | 常勤職員 | 非常勤職員 |
---|---|---|
月の賃金改善額の平均 | 23,299円 | 11,588円 |
東京都内の保育園へ転職を考えている方は、必ず処遇改善等加算Ⅱと保育士等キャリアアップ補助金を活用している保育園を選びましょう。
神奈川県横浜市(職員処遇改善費)
横浜市には「処遇改善等加算Ⅱの対象になれなかった経験年数7年以上の保育士さん」のお給料を、最大40,000円アップさせる制度があります。
国の「処遇改善等加算Ⅱ」は、経験年数がだいたい7年以上の職員を対象とした制度ですが、7年以上の職員全員が対象になれるわけではありません(保育園の職員数のだいたい1/3しか対象になれない)。
横浜市の制度は「処遇改善等加算Ⅱの対象になれなかった経験年数7年以上の職員も全員お給料アップしてあげよう!」というものです。施設長(園長)を除いた以下の条件をすべて満たす職員が対象です。
- 経験年数7年以上
- 1日6時間以上の勤務
- 月20日以上の勤務
東京都千代田区(給与等処遇改善事業実施加算)
千代田区には保育士さんなどの給料アップを目的とした制度があります。この制度は千代田区が独自で実施しているもので、常勤の保育士さんなどの月のお給料を最大で30,000円アップさせる制度です。
千代田区は国の制度、東京都の制度に更に上乗せして独自の制度を実施しています。そのため、国・東京都・千代田区の制度をすべて使っている保育園はかなりお給料が高くなっているといえます。
ちなみに、千代田区は「宿舎借り上げ支援事業」の補助上限額も独自で上乗せされています。
千代田区のお給料アップ制度すごい!
お金の面からみると千代田区の保育園は非常に優遇されていて、全国トップクラスだといえます。
宿舎借り上げ支援事業
宿舎借り上げ支援事業は、保育士さんが住む物件の家賃を補助してくれる制度です。直接保育士さんの給料が増えるわけではありませんが、間接的に給料を引き上げてくれる超重要な制度です。
宿舎借り上げ支援事業の詳細は以下の記事で解説しています。
【いつまで続く?】保育士宿舎借り上げ支援事業をプロが徹底解説!【転職を考える方必見】
給料引き上げ制度を活用している保育園を調べる方法
国の制度(処遇改善等加算Ⅱ)を活用している保育園か調べる方法
残念ながら自力で調べるのは難しいです。インターネット上で活用有無を公表している保育園がほとんどないからです。そのため、転職エージェント経由で保育園に確認するのがおすすめです。
転職エージェントについての詳しい内容は以下の記事で解説しています。
【保育士求人の探し方】転職エージェント活用完全マニュアル【おすすめをプロが解説】
東京都の制度(保育士等キャリアアップ補助金)を活用しているか調べる方法
以下の方法で「保育士等キャリアアップ補助金」を活用している保育園かを確認することができます。
0円になっている保育園は保育士等キャリアアップ補助金を活用していないということになります。
また、そもそも「財務情報(PDF)」が掲載されていない保育園も保育士等キャリアアップ補助金を活用していない保育園です。
まとめ
保育士さんのお給料を引き上げてくれる制度は複数あります。基本的には国の制度がメインですが、各自治体(都道府県や区市町村)が国の制度に上乗せしていることもあります。
ただし、お給料を引き上げる制度を活用するかどうかは保育園の判断になります。そのため、制度を活用している保育園と活用していない保育園でお給料の額は変わります。
転職先は、できるだけ給料引き上げ制度を活用している保育園を選ぶことをおすすめします。特に国の制度(処遇改善等加算Ⅱ)は全国の保育園が活用できる制度なので、活用している保育園か必ず確認しましょう。
国の制度を活用している保育園かどうかは、転職エージェント経由で保育園に確認してもらうのがおすすめです。
転職エージェントについては以下の記事で詳しく解説しています。
【保育士求人の探し方】転職エージェント活用完全マニュアル【おすすめをプロが解説】